第一章 ライターの秘密 5（完）
そこからの幸恵さんの行動は早かった码秉。
知り合いの煙草屋さんに電話して鹰服、店主がたまたま近くで飲んでいたのですぐに店を特別に開けてくれるという斗遏。俺たちはそこへ向かいライターを選んで貰った。出來るだけ似てるのがいいと俺は注文をつけた吉懊。店主はあれやこれや持ってきてくれて铸史、心做しか幸恵さんも楽しそうだった鼻疮。幸恵さんが選んでくれたのは、彼女の母がもっていたライターとよく似たものだった琳轿。
「い判沟、一萬八千円！崭篡？」
「それくらい兄ちゃん払ってやれよ挪哄、プレゼントなんだろ？」
そういうと店主は酔っ払ってるせいもあってガハハと笑った琉闪。どうやら俺が女の子にプレゼントするのを幸恵さんが見立てているという設(shè)定らしい迹炼。
いや、まあ颠毙、いいけど斯入。調(diào)査費用で請求してやる。なので俺は幸恵さんが財布からお金を出そうとするのを止めた蛀蜜。そもそも面倒なことをさせる爺さんに払わせてやる刻两。
幸恵さんはその後店主と一緒に飲みに行くという〉文常『兄ちゃんもどうだ磅摹？』と誘われたが滋迈、丁重（ていちょう）に斷った。甘いパンが俺を待っているというのもあったが户誓、きっと著信が恐ろしいことになっていると思う饼灿。バイブ音にしていたが、あまりに煩いのでさっきそっと無音にしておいたのだ帝美。
別れ際（わかれぎわ）の幸恵さんはどこか晴れ晴れしい顔をしていた碍彭。きっと今日は祝杯（しゅくはい）なんだろうなと思った。そしていつまでも俺に手を振り続けてくれていた证舟。
俺は改札を抜けるとスマホを取り出した硕旗。畫面は著信履歴で埋め盡くされていた窗骑。何だか肩にずしりと重さを感じたが女责、仕方なくタップする。ワンコールするかしないかで通話となった创译。
『どこだ抵知？』
だから第一聲がそれかよ…。
「電話に出られなくてすいません软族。今から橫須賀から帰るところです」
『無事か刷喜？』
「全然平気ですよ。ライター取りに行くだけですよ立砸？ただ…」
『ただ掖疮？』
「もうそちらの派遣會社を利用することはないかと」
電話口で早川さんは黙った。犬たちが吠える聲だけが聞こえた颗祝。
『……そうか浊闪。元気だったか？』
「ええ螺戳。元気でしたよ」
『なら搁宾、いい』
「タロウも華も元気そうで」
『亙の聲が聞こえるらしいな』
亙くん、來るの～倔幼！と後ろで聲がした盖腿。
「じゃあ、もう電車來るんで损同！」
『迎えにいくぞ』
「もう飲んでるでしょ翩腐？」
『飲んでねえわ』
俺はちょっと笑ってしまった。いつもこの時間膏燃、飲んでるはずなのに茂卦。よほど心配だったらしい。
「今日は大丈夫っす蹄梢！じゃ疙筹、マジ電車來たんで富俄！」
俺は強(qiáng)引に通話を切った。
今日は色んなことがあり過ぎた而咆。電車でゆっくり帰りたい霍比。あの心地よい揺れに身を任せて眠って帰りたい。そう思っただけだ暴备。
? ? 次の日悠瞬、俺は早めにBenさんの店に向かった。
爺さんのデイケアの日だったからだ涯捻。間に合えばいいけど浅妆。
古めかしい音を鳴らして扉を開ければ、カウンターに爺さんが座っていた障癌。
「あ凌外、亙！───本當(dāng)に亙と待ち合わせだったんだ…」
「え涛浙？」
「お義父さんが亙と待ち合わせしてるからデイケアには行かないって」
俺は苦笑する康辑。絶対早川さんから聞いただろ。
俺は爺さんの隣に座る轿亮。爺さんはジロリと不躾(ぶしつけ)に俺を見た疮薇。確かに。この人の眼光は鋭いものだった我注。ちょっと考えれば分かりそうなものだったはずなのに按咒。ただの偏屈な爺さんだと思っていたぜ。
俺はポケットの中からライターを取り出した但骨。綺麗にラッピングしてくれてたのに剝がしちまって申し訳ないけど励七、ややこしい話になるのはごめんだ。
「───コレだろ嗽冒？」
爺さんは紅い曲線の美しいライターを手に取る呀伙。
「部品がもうねえんだ。それでも選んでもらってきたんだから添坊、それでいいだろ剿另？」
爺さんはフンっと鼻を鳴らした。カチリと動かし動作を確かめる贬蛙。愛用のPEACEを咥えると雨女、火を點けた。
爺さんは美味そうに一服すると阳准、上著の內(nèi)ポケットに手を入れて封筒を俺に差し出した氛堕。俺はそれを受け取ると中をサッと確認(rèn)する。札が數(shù)枚入っていた野蝇。
「確かに”俺のライター”だな」
依頼終了だ讼稚。どうやら爺さんの望む結(jié)末だったらしい括儒。
俺は美味そうに煙草を吸う爺さんをぼんやりと見つめた。煙草の煙がゆっくりと上っていっては消える様を儚げ(はかなげ)だなと思いながら锐想。
暫くするとまた孫がやって來て帮寻、キャンキャンと喚き始めた（わめきはじめる）。それでも爺さんを車で送って行くらしい赠摇。散々文句を言っているわりには固逗、車內(nèi)は禁煙じゃないことは知っていた
「亙、今日はどうする藕帜？」
ベンさんが聲を掛けてくれた烫罩。どうやら仕込みは終わったらしい。
「カレー洽故！大盛り贝攒！」
ベンさんはまたかという顔をして、用意を始めてくれる收津。ベンさんとこのカレーは飽きないからいいんだよ饿这。
俺はふと封筒の中味を確認(rèn)する浊伙。まあライター代と交通費を引いたらトントンという依頼だったが撞秋。
「…ん？」
確かに封筒には札が數(shù)枚入っていたが……
「───”諭吉”じゃなくて嚣鄙、”漱石”じゃねえかっ吻贿！爺ぃーーーーー！哑子！」
クッソ舅列。やられた！赤字じゃねえか卧蜓！あの爺ーーーＵ室！
「え弥奸？ごめん榨惠、お義父さんが何かした？」
ベンさんが心配そうに項垂れている俺の顔を見る盛霎。
「あ赠橙、いや。何でもないっす…」
「……よく分かんないけど愤炸、何かあったら言って」
いや……いろいろあり過ぎて言えません期揪。
「メンチカツ付けてあげるよ」
ベンさんはそう言うと揚げ油の再度火をいれた。
クッソ规个。さすが元ヤクザ凤薛。やられた姓建。
しかし昔は隨分とイケメンだったよな。俺は見せてもらった寫真を思い出す缤苫。
「あ引瀑。そう言えば…爺さん、口元にホクロなんてあったっけ榨馁？」
ジュワジュワと音のする中でベンさんが答える憨栽。
「昔はあったけど、大きくなってきたから手術(shù)で取っちゃったんだって翼虫。大きくなるホクロは良くないっていうだろ屑柔？ウチのが気にしてさ」
そういえば幸恵さんの口元にも、さっきの孫の口元にもホクロが…珍剑。
「遺伝か…」
「そう隔世遺伝だね掸宛。ウチのやつにはないから。孫は祖父母に似るっていうだろ招拙？」
自分と同じところにホクロのある娘唧瘾。
可愛くないわけがない。きっと爺さんはすぐに幸恵さんだって分かったはずだ别凤。ライターだって本當(dāng)は…わざと忘れたのかもしれない饰序。持っていて欲しくて。
隨分とお互いまどろっこしいやり方だ规哪。けれど何十年も違っていた道を歩んでいたんだ求豫。慎重にもなるのかもしれない。
ベンさんはその日メンチカツを二つも付けてくれた诉稍。
? その日蝠嘉、久しぶりに銭湯（せんとう）に行った。なんだか疲れていたからだ杯巨。そもそもややこしい依頼だったせいか蚤告？
家に帰ってきてパピコを半分だけ食べる。自分にご褒美だ服爷。今回はめちゃくちゃ損したけどな杜恰。
ふと著信があった。早川さんだった层扶。
「ふぁい」
『……』
「あ箫章、すいません。パピコ食ってました」
『家か镜会？』
「はい」
『仕事を頼みたいと思ってな』
昨日の今日でソレ言います檬寂？
「はあ」
『今日タロウの病院に行ってな』
「タロウどこか悪いんですか！戳表？」
『こないだの検査結(jié)果を聞きにいっただけだ桶至。───ただ心臓の數(shù)値がよくなくてな昼伴。月に一回病院に通うことになった』
タロウは九歳の柴犬で、華は四歳のパピヨンだ镣屹。
「そろそろ圃郊、年齢っすかね……」
俺も何だか暗い気分になる。元気で散歩には行けてるけど女蜈。
『それでな持舆、亙に病院に連れて行ってもらおうと思って』
「あー。じゃあ散歩のついでに病院行きますよ伪窖。家の近くの病院ですよね逸寓？」
『それじゃダメだ。毎月二十日って決まってる覆山。だから追加で頼む』
週三で行ってるのにＶ裆臁？きっちり二十日に行かなくても平気だろ簇宽。
『心臓病の薬は強(qiáng)めの薬らしいから勋篓、きっちり毎月二十日だ。いいな魏割？』
「は譬嚣、はあ…」
『で、それを一回二萬で頼みたい』
「は见妒？あり得ないっしょ孤荣？いつもの…」
『なんだ。それじゃ不満か须揣？亙も言うようになったもんだな。じゃあさん…』
「二萬でいいです」
クッソ钱豁。いつもコレだ耻卡。でも今回は……。
「───で牲尺、お望みの結(jié)果だったんですかね卵酪？」
『これで”兄貴”も心置きなくあの世に行けるって言ってたぜ』
「そうすか。クソ爺だから暫くはあの世に呼ばれませんよ」
早川さんは珍しく電話口で嬉しそうに笑っていた谤碳。
『俺も”お嬢”が心配だったからな溃卡。今はそうそう會いに行けないしな』
アンタが”初戀の人”だったらしいっすよ。そう言いたいのを我慢する蜒简。今回の病院の件瘸羡、わざわざ仕事作ったんだろ？薬なんて多めに貰ってくれば問題ないはずだ搓茬。
「ありがとう犹赖、ございます」
『禮を言うのはこっちのはずだろ队他？おかしなヤツだな』
そういうとこが格好良すぎんだよ！
電話を終えると俺はベッドに寢そべった峻村。
他人にしか解決できないこともある麸折。この仕事をしているとそう思うことも少なくない。しかも依頼內(nèi)容をこなすことが正解ではないのだ粘昨。
難儀（なんぎ）な仕事だな垢啼。
俺は苦笑しつつも、なんだか今日は幸せな気分で眠れそうだと目を瞑った张肾。
