乾燥した椰子の葉で組まれた大きな羽根が未蝌、風(fēng)通しのいい室內(nèi)の天井でくるくると回っていた。
獨(dú)立したヴィラであるゲストルームの開(kāi)け放されたパティオからは茧妒、暖かい風(fēng)が室內(nèi)にゆるゆると流れてくる萧吠。ヴィラ全體が、どこか甘く気だるげでまどろむような感覚に満たされていた桐筏。
そんな空間の一畫(huà)から纸型、悲鳴と呼ぶにはどこか媚態(tài)をにじませた弱々しい聲音が響いてきた。
「痛い……梅忌、キルヒアイス」
「もう少しのご辛抱を狰腌、ラインハルト様」
「うう~」
抗議とも言えない文句を耳にしながら、キルヒアイスは日焼けして火照ってしまっているラインハルトの背に牧氮、たっぷりの精製水を含ませたガーゼをのせていく琼腔。白い滑らかな背が赤くなって痛々しい。その姿に踱葛、キルヒアイスの方が痛みを耐えるような顔をしていた丹莲。
六萬(wàn)七千㎡に及ぶ広大なプライベートヴィラは小高い場(chǎng)所に建てられているため、そこから望める展望はさすがに素晴らしかった尸诽。何よりも他人と関わらなくて済むというのが最大の魅力だろう圾笨。見(jiàn)事な景観を獨(dú)り占めできるのだ。もちろんセキュリティーは萬(wàn)全である逊谋。
南國(guó)特有の開(kāi)放的な建築様式にチーク材やオーク材擂达、藤や竹などの手作り家具が置かれ、ゆったりとした居心地のよいヴィラだった胶滋。その寢室の一つで板鬓、ラインハルトはうつ伏せの狀態(tài)で唸っていた。
伏せているベッドは究恤、天然素材のアバカで編まれた軽くて通気性がよく俭令、どっしりとしていてそのくせすべらかな肌觸りが心地よい。床には天然竹のラグが敷かれ部宿、深みのある濃い赤がどこか気分を落ち著かせてくれた抄腔。天然素材の製品など瓢湃、この時(shí)代では最高級(jí)品である。
だが赫蛇、今のラインハルトにはそんなものは全く意味をなさなかった……绵患。
ここは惑星全體を風(fēng)光明媚なリゾート施設(shè)に改良してしまった、観光惑星の『バイアエ』という悟耘。
『バイアエ』は帝國(guó)と同盟の戦いを後目に落蝙、経済流通を握ろうとしたフェザーンとはまた違った路線を貫いてきた。四季に分けてそれぞれの特色を生かして改良を施した結(jié)果暂幼、観光に特化した獨(dú)自のビジネスを展開(kāi)することとなった筏勒。『バイアエ』という名もその矜持からか旺嬉、人類(lèi)が発生してから最初の保養(yǎng)地といわれた地名から名づけた管行。
フェザーンやオーディン、ハイネセンのような喧騒から逃れたい者邪媳、人工衛(wèi)星や宇宙暮らしに飽いた者病瞳、生の自然を體験したい者、繰り返しの日常から離れたい者など悲酷、様々な理由から人々が訪れる套菜。高原や南國(guó)の施設(shè)でのんびりと過(guò)ごす者もいれば、海や山の古典スポーツに興じる者や设易、本格的な嵐や臺(tái)風(fēng)逗柴、吹雪、竜巻など自然の驚異を體験したいという者もいる顿肺∠纺纾荒れた天候ではなく、ただ満天の星空やオーロラや虹屠尊、蛍や極彩色の魚(yú)たちなどの緩やかな自然を楽しみたい者もいる旷祸。極寒の地もあれば灼熱の砂漠地帯もあり、密林の探検も楽しめるという讼昆、まさに“自然”を売り物にしたリゾート惑星だった托享。
この宇宙時(shí)代に“自然”を売りにするなどとは、どれほどの贅沢だろうか浸赫。ここを訪れた者は闰围、あまりの居心地の良さにそのようなことはつい忘れてしまいがちになるのが常だった。その為既峡、滯在期間を延長(zhǎng)して泣きを見(jiàn)る者が続出するという……羡榴。
ラインハルトとキルヒアイスの二人は、ここ『バイアエ』の南國(guó)リゾートエリアに滯在していた运敢。それはラインハルトの姉であるグリューネワルト大公妃アンネローゼから校仑、“新婚旅行”として二人にプレゼントされたからである忠售。
オーディン郊外フロイデン。
季節(jié)は山奧の靜かなこの山荘にも迄沫、ようやく春らしい気配が訪れ始めていた頃稻扬。
「…ラインハルトが……。そう……邢滑、よかったわ。ありがとうジーク」
柔らかい春の色合いの室內(nèi)に響くのは愿汰、嗚咽交じりの中にもどこか喜びが溢れ出るような女性の聲困后。
『いいえ、アンネローゼさま衬廷。私のせいではありません摇予。ラインハルト様が戻ってこられた、それだけです』
「そう…吗跋、そうね」
端末の畫(huà)面から屆くキルヒアイスの穏やかな聲が侧戴、アンネローゼの耳から中心部に響いてくる。やがて安堵感からか跌宛、緊張の糸が切れたからか酗宋、涙腺がゆるんで泣き笑いのようになってしまった。ぬぐってもぬぐっても溢れでて疆拘、滑らかな薔薇色の頬をつたう蜕猫。
「…ごめんなさい“テ……止まらなくて」
『お?dú)荬摔胜丹椁骸?/p>
そう言って首をふる畫(huà)面の向こうにいる顔も回右、つられて泣きそうになって眉がよってしまう。こらえようとしてくしゃりと漱挚、いっそう顔が歪んだ翔烁。そんなキルヒアイスの姿を見(jiàn)つめているうちに、アンネローゼも徐々に穏かさを取り戻してきた旨涝。
「それで蹬屹、ラインハルトはどうしているのかしら?」
『……白华、その……ですね哩治。……実は』
『…は衬鱼、ね…うえ……』
どう説明しようかと口ごもった時(shí)に业筏、ラインハルトの聲が割り込んできた。
『ラインハルト様鸟赫! 駄目です蒜胖、お休みになっていなくては』
『らい消别、じょうぶ、だ……台谢。げほっ…寻狂。あれ、うえ…朋沮、お會(huì)い蛇券、れ…きて、うれ……ひい樊拓、です…げほっ』
アンネローゼの視界に纠亚、ラインハルトがキルヒアイスの腕に倒れ込む。高熱のせいだろうか筋夏、真っ赤な顔をしてキルヒアイスにしがみつきながら蒂胞、たどたどしく話しかけてくる。時(shí)折咳き込むのは喉も腫れているのだろう条篷。
「ラインハルト骗随! 顔が赤いわ、熱があるのね」
『す赴叹、…ぐに鸿染、さが…り、ます……』
『ラインハルト様』
意識(shí)が朦朧としてずるずると沈みそうになるラインハルトの身體を乞巧、キルヒアイスが腕を回して抱え込む牡昆。
氷の湖に落ちた後、案の定風(fēng)邪を引いてしまったのだ摊欠。そのせいでラインハルトは高熱を発してしまい丢烘、安靜を言い渡されてベッドに縛り付けられていた。しかしキルヒアイスがアンネローゼに報(bào)告をするというので些椒、ふらつく身體で這い出してきたらしい播瞳。
キルヒアイスに縋りつきながら、息をするのも苦しそうだった免糕。
「ラインハルト赢乓、きちんと休んで大事にしなければ……。せっかく……石窑、せっかく元に……戻ったのですから牌芋。もう……、無(wú)茶はしないでちょうだい」
アンネローゼの脳裏に病に臥したラインハルトが映し出される松逊。度重なる発熱によって體力を奪われ躺屁、痩せて弱っていく弟。自分はただ見(jiàn)ているだけしかできなかった经宏。死に向かっていくのを止めることもできずに犀暑、失くしてしまう恐怖と絶望感を抑えて傍に居続けた驯击。
それはキルヒアイスを突然失ったと思ったときの衝撃と喪失感と、どちらが重いかなど比べようもない耐亏。どちらを失くしても自分は生きていくことができないのだ徊都、と思い知った瞬間だった。
キルヒアイスがラインハルトを?qū)嬍窑貙嫟筏膜堡茟盲皮腠暏摔瞎愠健ⅴⅴ螗庭愆`ゼも落ち著いてきたようだった暇矫。いつもと変わりない様子に戻ったアンネローゼに安堵しつつ、自分もどこか不安だった気持ちが靜まっていくのを感じていた择吊。
「ごめんなさいね李根、取り亂してしまって……」
『とんでもありません』
「ジーク、貴方も一緒に湖に落ちたのでしょう干发? 平気そうに見(jiàn)えるけれど朱巨、貴方の方は大丈夫なの」
『はい史翘。ついでに診て頂きましたから枉长、私の方はなんともありません』」
「そう、ならばいいけれど……ラインハルトの看病だからと言って琼讽、無(wú)理はしないでちょうだい」
『ご心配には及びません必峰、アンネローゼ様。決して無(wú)理はいたしませんから』
アンネローゼを安心させるようにキルヒアイスは柔らかい笑みを浮かべた钻蹬。その笑みは吼蚁、アンネローゼにも本當(dāng)に久しぶりに見(jiàn)る表情だった。
キルヒアイスにとってラインハルトが问欠、ラインハルトにとってキルヒアイスが肝匆、二人にとってお互いがどれほど大事な存在であることか。キルヒアイスの笑みは顺献、そのことをアンネローゼに再確認(rèn)させるのには十分すぎた旗国。
フロイデンへ戻ってくるのはラインハルトの身體が快癒してから、ということになった注整。詳しいことは戻ってからとして能曾、その後は簡(jiǎn)単に狀況を報(bào)告しあってキルヒアイスとの通信を終えた。
アンネローゼはしばらくの間何かを考え込んでいたが肿轨、おもむろに通信回路を開(kāi)いた寿冕。
相手はフェザーンにいるヒルダだった。
「……まあ椒袍、アレクはもうつかまり立ちを始めたの驼唱?」
『はい。何かをつかむと立ち上がろうとして……驹暑。この間はそれで反対側(cè)に転んで大泣きしてしまって曙蒸、しばらく泣き止まなかったそうです』
聞いていたアンネローゼは捌治、嬉しそうに話すヒルダにちょっと柳眉をよせた。ヒルダの言葉から纽窟、その狀況を直接見(jiàn)ていたわけではなさそうだと感じたのだ肖油。
「そんなにお忙しいの? ヒルダさん」
『え……』
心配そうに気遣ってくれるアンネローゼに臂港、何故かヒルダは後ろめたさを感じてどきりとした森枪。
『……今が大切な時(shí)期なんです。陛下からお預(yù)かりしたものをアレクに引き継ぐためにも审孽、ここできちんと整備しておかなければ』
まるで自分自身に言い聞かせるようにヒルダは言った县袱。その気持ちは本當(dāng)なのだろうが、そのためにアレクに寂しい思いをさせている佑力。立場(chǎng)上仕方のないことだが式散、ヒルダ自身の性格もあるのだろう。それが後ろめたさを感じてしまうのかもしれない打颤。
「……ラインハルトは暴拄、何もかもを貴方に任せてしまったのですね」
『いいえ、やり甲斐のあることだと思っております编饺。アンネローゼ様がご心配くださるお?dú)莩证沥戏证盲皮い毪膜猡辘扦构耘瘛¥扦獗菹陇纤饯蛐蓬mして託されたのです、精一杯応えていきたいと思っていますの』
アンネローゼは瞳をきらきらと輝かせて語(yǔ)るヒルダに透且、生きがいというものが自分とはずい分と違うのだと感じざるをえなかった撕蔼。そして弟の観察眼の正しさを改めて認(rèn)識(shí)した。
「なら宜しいのですけれど……秽誊。あまり根をつめて無(wú)理はなさらないで下さいね」
『ありがとうございます鲸沮。ところでアンネローゼ様は、私に何か用があったのではありませんか锅论?』
遠(yuǎn)慮がちなアンネローゼの態(tài)度にヒルダが手を差し伸べた讼溺。近況の雑談に紛れてはいたが、自分に何か言いたそうなそぶりが幾度か見(jiàn)られたのだ棍厌。それでもしばらくは話そうかどうしようか躊躇いをみせていたアンネローゼだったが肾胯、ヒルダに促されて意を決したように話し始めた。
「舊同盟領(lǐng)のバーラト自治區(qū)では耘纱、同性同士でも結(jié)婚ができるのだと聞いたのですけれど……」
『……はい』
予想外の話の方向にヒルダは戸惑った敬肚。アンネローゼはいきなりなにを言いだすのだろう……。
「私の知り合いの方々にも束析、同性同士で一緒になりたいという方もいらっしゃって……艳馒。ヒルダさんもお分かりだと思うのですけど……」
考え考え口にするアンネローゼに、そういえばとヒルダも記憶の中から引っ張り出す。
『確かに弄慰。貴族のご令嬢の中には第美、どうしても親の進(jìn)める相手を受け入れることができないと、悩んでいる方もいらっしゃいました陆爽。大學(xué)へ通っていた頃には什往、男性にもそうらしい方もいらっしゃいましたね』
今思えばそうとしか思えない人たちが確かにいた。ゴールデンバウム王朝では同性愛(ài)は禁じられていた』疟眨現(xiàn)王朝では撤廃されたとはいえ别威、その関係が公に認(rèn)められたとはいい難い。対して舊同盟領(lǐng)では驴剔、結(jié)婚はおろか“病気”の治療のために性転換手術(shù)も行われるという省古。帝國(guó)の人間にとってはかなり衝撃的なことだが、それらも受け入れていかなくてはならないことのひとつだろう丧失。
「小さな不満はしこりとなって殘る場(chǎng)合もありますし豺妓、自治區(qū)の方とお付き合いするのであれば、差しさわりのない場(chǎng)合は一緒になってもいいのではないかしら」
『アンネローゼ様……』
同性婚布讹!
まさかアンネローゼから言い出されるとは思わない単語(yǔ)だった琳拭。しかし言われてみれば一理あると思われる。
舊同盟領(lǐng)では“個(gè)人の人権”というものが最大の権利として保障されている臀栈。そして自治區(qū)の中では挠乳、今もそれが公権として息づいているのだ姑躲。それに対して帝國(guó)の公権力が彼らにとって“人権を害する”と感じれば、たちまち反発が広がるだろう黍析。ごく個(gè)人的なものであればあるほど燻ぶり続けるに違いない。
體制にさほどの害がなければ先に公にしてしまうほうがいい場(chǎng)合もある阐枣。その昔には惑星規(guī)模のデモまで起こったという記録が殘っていた马靠。このような些細(xì)なことで新王朝の土臺(tái)が揺らぐとは思えないが甩鳄、蟻の穴から堤も崩れるとの例えもある妙啃。
「私も、気心の知れたお友達(dá)と一緒の方が気楽なこともありますし……」
ひっそりとした呟きに馆匿、ヒルダは義姉であるアンネローゼの再婚という可能性を考えた渐北。ラインハルトは可能性としても意識(shí)の外にあったし铭拧、皇位継承権の事を考えればあちこちから反対も出るだろう羽历。
だが秕磷、相手が同じ女性ならばどうだろうか。
- これからの人生を一人で歩く∈枘颉-
自分にはアレクがいる褥琐、でも義姉には共に歩む生者はいない晤郑。それはどれだけ寂しいことだろう造寝。立場(chǎng)上诫龙、男性との再婚は難しいが、女性ならばさほどの反対も出ず許されるのではないだろうか谷异。ヒルダは優(yōu)しさからとはいえ歹嘹、それが自分が感じている“後ろめたさ”の反動(dòng)だとは気づかない荞下。
『……そうですわね。悪くはないかもしれません仰税。純粋に好意を感じた方が同性だったという場(chǎng)合もありますし陨簇、相続や財(cái)産分與をしたくないという場(chǎng)合もありますものね』
「ヒルダさん……」
それは貴族が考えそうなことだわと思ったが河绽、アンネローゼは心に思うだけで口にしなかった唉窃。
『お義姉様のためにも纹份、アレクの誕生日に間に合わせてみせますわ』
使命感に燃えてヒルダは宣言した蔓涧。彼女が勘違いをしているのは分かったが、わざわざ水をさすこともあるまい篷扩。大切な“義姉”のために鉴未、自分からひと肌ぬごうというのだから歼狼。
「宜しくお願(yuàn)いしますね、ヒルダさん」
アンネローゼはにこやかに義妹を応援した趟咆。
病狀が回復(fù)してオーディンに戻ったラインハルトとキルヒアイスの前には值纱、一枚の文書(shū)と共に數(shù)種類(lèi)の書(shū)類(lèi)が差し出されていた虐唠。
その文書(shū)には民法の一部改正事項(xiàng)が明記され、新帝國(guó)暦四年五月十四日公布とある搓幌。
「Lebenspartner schaft sgesetz(ライフ?パートナーシップ法)」
⊙嘎帷- 性的指向による差別の撤廃により饲趋、同性でも異性結(jié)婚と同等の権利奕塑、義務(wù)龄砰、保障を認(rèn)めるものとする。但し扒披、親族権碟案、遺産相続権价说、養(yǎng)子縁組資格においては関係者との協(xié)議により鳖目、あらかじめ詳細(xì)を記載するものとする×炻酢-
大まかな箇所だけ取り出すと上記のような改正がなされたらしい狸捅。つまり……累提。
「同性婚……ですか」
「普通の結(jié)婚と全く同じという訳ではないけれど斋陪、一応認(rèn)められたということかしらね」
「ふん。富裕層と稅金対策に考慮したというところか」
「最初の段階としてはずい分踏み込みましたね」
「……そうだな」
自分は撤廃するところまでしかできなかった交洗。五百年に渡る偏見(jiàn)は根強(qiáng)かったのだ构拳。それをヒルダは一體どうやってこの案を通したのだろうか置森? いくら摂政としての権限はあるとはいえ凫海、自分と同等の獨(dú)裁権を発揮するとは思えない行贪。
「こういう事は女性から進(jìn)める方が建瘫、反対が出にくいのかもしれないわね」
「姉上啰脚?」
「……どういうことでしょう」
「うふふ」
二人の疑問(wèn)に橄浓、アンネローゼは曖昧に微笑んで答えようとはしなかった亮航。
「では二人とも缴淋、こちらの書(shū)類(lèi)にサインをお願(yuàn)いね宴猾。すぐに送信して手続きをするわ」
「手続き仇哆?」
「これは……」
「もちろん申請(qǐng)書(shū)よ讹剔。二人とも一緒になりたくないの延欠?」
「それは……由捎。しかし狞玛、表向き私は死んでいるのですが……」
「私もです心肪。姉上……」
姉の問(wèn)いかけに硬鞍、二人はどこか途方に暮れたような顔をした固该。そんなに簡(jiǎn)単に手にしていいのだろうかと伐坏。
「確かにローエングラムの姓は無(wú)理ね著淆、でもミューゼルならよくある姓でしょう永部?」
「ミューゼル……」
一度捨ててしまった姓を名乗ることに苔埋、ラインハルトは少々複雑な顔になった组橄。今の身分証は玉工、ただ“R?V?M”となっている遵班。キルヒアイスも“S?K”のみだ。
「ジークも腹暖、お婿にきてくれるでしょう糕殉?」
「……私の名も殖告、よくある名前だと思うのですが」
どうせなら赡磅、ラインハルトにお嫁にきて欲しい焚廊。言外に希望を述べてみたが习劫、あっさりと卻下されてしまった袒餐。
「いいえ灸眼、ジーク焰宣。殘念ですけれど匕积、貴方の名前は帝國(guó)の人なら皆知っていてよ」
「何故です闪唆?」
「……すまない悄蕾、キルヒアイス」
疑問(wèn)に思うキルヒアイスに笼吟、ラインハルトが小さな聲で呟いた贷帮。
「ラインハルト様……」
俯いてしまったラインハルトを心配して覗き込むが撵枢、ますますうな垂れてしまった锄禽。
「アンネローゼ様」
困ったようにアンネローゼに助けを求めると沃但、彼女はまるでたった今悪戯を思いついたように楽しそうな顔で微笑んでいた宵晚。
「ラインハルトったら“ジークフリード?キルヒアイス武勲章”という勲章を作ってしまったのよ淤刃。だから貴方の名前もよく知られているの逸贾。それに自分の子供の名前もジークフリードとつけてしまったし铝侵、お墓も仲良く二つ並んでいるのよ」
だから貴方の名前も有名なのよ咪鲜、と嗜诀。
「は……」
あまりのことにラインハルトを振り返ると隆敢、耳まで真っ赤に染めて俯いている拂蝎。
「……らいんはるとさま」
思わず呼びかけた名前がおかしい玄货。
「すまないキルヒアイスK勺健隘世! でも皆にお前の素晴らしさを知って欲しかったんだ」
わかってくれるだろう丙者? と械媒、潤(rùn)んだ瞳で必死になって見(jiàn)つめてくるラインハルトは可愛(ài)らしかった纷捞。しかし兰绣、こればかりは受け入れがたい缀辩。
「ラインハルト様のお?dú)莩证沥湘窑筏い韦扦工涡uずかしいのでせめて武勲章は廃止して頂けないでしょうか」
子供の名前の取り消しは無(wú)理だし、墓所は並んでいても構(gòu)わない累贤、むしろ嬉しい臼膏。しかし渗磅、これだけはときっぱりと言ってのける始鱼。ラインハルトはキルヒアイスの袖に縋りついたまま医清、挙動(dòng)不審者のようにうろうろと視線を彷徨わせた鞋怀。
「ラ?イ?ン?ハ?ル?ト様」
「う……」
強(qiáng)い口調(diào)で訴えると、ラインハルトは口ごもった葫盼。キルヒアイスの袖に縋り付いたまま固まっている贫导。
「それでね孩灯、ラインハルト峰档。サインを終えたら讥巡、このドレスを著てジークと一緒に寫(xiě)真を撮って欲しいの」
「え? ドレスって抬驴、姉上」
二人のやり取りを意にも介さず布持、橫合いからアンネローゼの嬉しそうな聲が割って入った鳖链。
「もちろん芙委、ウェディングドレスよ推捐。公にお式をあげるわけにはいかないでしょう牛柒? だから皮壁、せめて二人の記念寫(xiě)真でもと思って」
「「ええええっっ6昶恰!H铀魔市!」」
「もう撮影していただく方をお呼びしているの嘹狞、二人とも早く著替えてね」
「「!=怠A浅薄除呵!」」
いつの間にか目の前には真っ白なドレスと颜曾、元帥の禮裝一式が入った箱が置かれていた泛豪。
「……姉上、これを私が著るのですか价卤?」
「ええ荠雕、似合うと思うわ。沢山のデザインの中から選んでみたの煤傍。どれも素?cái)长恰ⅴ楗ぅ螗膝毳趣怂坪悉い饯Δ胜韦蛱饯工韦蠘Sしかったわ」
と龄恋、両手を頬に添えている様子は稚い少女のようだ。だが……显押。
「でも……」
「まあ乘碑、ラインハルト金拒。ジークに花嫁姿を見(jiàn)てもらいたくないの兽肤?」
「キルヒアイスの花嫁……」
「そうよ。花婿姿のジークと並んでみたくない?」
ラインハルトは白いドレスを手に取り磅叛、しばらくドレスを見(jiàn)つめていたかと思うとキルヒアイスを振り仰いだ值骇。
「おれに似合うと思うか鞭呕? キルヒアイス」
「きっと、お綺麗ですよM鸸佟葫松!」
お世辭でもなんでもなく力説する。
「そうか」
言われたラインハルトは真っ赤になりながら頷くと底洗、著替えるためにドレスを抱えて隣室へと向かった腋么。
隣の部屋へと消えていくラインハルトの後姿を見(jiàn)送りながら、キルヒアイスはウェディングドレス姿のラインハルトを想像してうっとりしてしまった亥揖。
「ラインハルト様が私の花嫁……」
先ほどの名前のやり取りのことなど珊擂、完全に頭の片隅から消えていた。
「ジーク」
「はい费变、アンネローゼ様」
先までとは違うアンネローゼの聲音に摧扇、キルヒアイスも姿勢(shì)を正した。
「改めて挚歧、ラインハルトをお願(yuàn)いね」
「……はい扛稽、…はい、アンネローゼ様」
靜かなけぶるような眼差しに滑负、心の奧底を見(jiàn)抜かれたように感じた在张。柔らかな中にも偽りを許さない厳しさを感じとり、キルヒアイスは熱のこもった真摯な答えを返した矮慕。それに安堵したようにアンネローゼは表情を綻ませた帮匾。
「でもね、ジーク」
「はい」
「二度とラインハルトを悲しませることは許しませんよ」
アンネローゼの慈愛(ài)の微笑が痴鳄、キルヒアイスには穏やかな春の陽(yáng)射しの一角に雷光が落とされたような瘟斜、全身が凍りつくほどの衝撃を受けた。
そうして二人はアンネローゼを証人として夏跷、申請(qǐng)書(shū)にサインをし哼转、記念寫(xiě)真を撮影したのだった。
ドレスを纏ったラインハルトを見(jiàn)ても槽华、呼ばれた撮影者は別に不思議とも思わなかったようだ壹蔓。モデルは大柄な美人が多いので、ウェディングドレスのキャンペーンの為の撮影とでも思ったらしい猫态。體格はデザインやベールにうまく隠されていた佣蓉。そのため披摄、撮影者はモデルの美しさにただ感嘆のため息を漏らし、アンネローゼが満足するまで撮影をしていった勇凭。
そして記念撮影の後に疚膊、アンネローゼからチケット一式を渡されたのだった。
「せっかくですもの虾标、暖かい場(chǎng)所でのんびり過(guò)ごすのも悪くなくてよ寓盗。貴方達(dá)は今まで急ぎすぎたのですから……」
そんな姉の気遣いを無(wú)にする理由もなく、二人は愛(ài)する姉からの“新婚旅行”というプレゼントをありがたく受け入れたのだった璧函。
陽(yáng)射しは暑いのに不快ではなく傀蚌、足元の砂はじんわりと熱さを伝えてくる。どこか時(shí)間を置き去りにしたような緩やかな空間に身を置くのは蘸吓、確かに生まれて初めての経験だった善炫。
生き急いだとは思わないが、脇目も振らずに邁進(jìn)した自覚はある库继。こういう知らない世界を目にすることも箩艺、悪くないと感じさせられる。
このエリアは朝市というものも売りらしい宪萄。プライベートヴィラの敷地を出ると艺谆、早い時(shí)間にも関わらず色々な品が並べられていた。陽(yáng)射しを遮るだけの布がかけられた雨膨、簡(jiǎn)易テントのような店舗が軒を連ねている擂涛。
様々な色の布地に、見(jiàn)たこともない食材や小物の數(shù)々聊记。今まで自分たちが暮らしていた人工的な都市では見(jiàn)ることのできない光景に、二人は妙に浮き立つ気分のままそぞろ歩いた恢暖。
見(jiàn)るもの聞くもの全てが初めてのものばかりで排监、ラインハルトは好奇心の赴くままに、あちらこちらで足を止めては見(jiàn)入っていた杰捂。気になる品は手に取ってしげしげと見(jiàn)つめたり舆床、店の者にいろいろと質(zhì)問(wèn)したりしている。キルヒアイスは一歩後ろから嫁佳、そんなラインハルトを愛(ài)おしそうに見(jiàn)つめていた挨队。
「キルヒアイス、飲むか蒿往?」
いきなり目の前に差し出されたのは盛垦、歪な楕円形でサッカーボール位の大きさがある、緑がかった色がいかにも固そうな茶色い物體だった瓤漏。それに長(zhǎng)めのストローを突き刺して腾夯、ラインハルトが両手で抱えていた颊埃。
「ちょっと甘いが、悪くないぞ」
そう勧められて蝶俱、ストローに口をつける班利。
「ええ、確かに榨呆。でもこの味はどこかで口にした事があるような気がするのですが……」
引っかかるのか思い出そうとするかのようなキルヒアイスに罗标、ラインハルトはあっさりと答えた。
「ココナッツミルクだそうだ」
「ココナッツミルク积蜻、ですか」
「ココ椰子の胚乳らしい闯割。熟してから乾燥させた実はクーヘンの材料にもなるそうだ」
「そういう事ですか」
言われてみれば納得した。アンネローゼが作ってくれたクーヘンの中に浅侨、確かにココナッツを使ったクーヘンがあったことを思い出した纽谒。その味だったのだ。生のものと焼かれたものとでは如输、若干風(fēng)味に違いがあるようで鼓黔、すぐには気づかなかった。気づけば確かに香りが似ている不见。クリームとは違う甘い香り澳化。
「これがそうなんですか」
「うん」
馴染んでいるココナッツのクーヘンと目の前のココ椰子が結(jié)びつかない。とても同じものだとは思えない稳吮。それはラインハルトも同じらしく缎谷、ミルクを口にしてはしげしげと見(jiàn)つめるという事を繰り返している。その様は無(wú)邪気な少年のようで微笑ましく灶似、キルヒアイスの記憶の中にきっちりと切り取って大切にしまいこまれた列林。
ココナッツミルクを飲み干すと、実を返してまた市場(chǎng)をそぞろ歩く酪惭。
市場(chǎng)の屋臺(tái)で酸っぱ甘い慣れない味の朝食の後は希痴、プライベートビーチでのんびりと散策をした。誰(shuí)も見(jiàn)ているものがいないという気安さのせいか春感、はじめは照れくさそうにしていたが砌创、仲良く手をつないでヴィラまで戻ってきた。
その後はパティオのデッキでラウンジャーに憑れて鲫懒、本をめくったりして過(guò)ごしていたのだ嫩实。だが気だるい空気の中で、ついそのままうたた寢してしまったのだろう窥岩。キルヒアイスが気づいた頃には甲献、丸くなって眠っているラインハルトの背中は見(jiàn)事に赤くなっていた。
日焼け止めを塗ってあったし谦秧、日除けもしてあったとはいえ竟纳、陽(yáng)射しの強(qiáng)さに肌が負(fù)けてしまったのだろう撵溃。すぐに冷水のシャワーで冷やしたものの、夜になって火照ってきてしまい锥累、ラインハルトは痛みに唸る羽目に陥ってしまったのだ缘挑。
「キルヒアイス……」
涙目になりながら訴えてみる。
「こればかりは……治まるまではどうしようもありません」
そう言っては桶略、乾いてしまったガーゼを取り替える语淘。日焼けのケアは乾燥させるのがよくないというので、消炎作用のあるカモミールジャーマンとホホバオイルの精油を垂らした精製水にガーゼを浸しては肌にのせていく际歼。髪も以前のように短く切ってしまったので惶翻、うなじまでこんがりと焼けている。
マッサージは痛んだ肌に負(fù)擔(dān)をかけるので鹅心、火照りが治まってからの方がよいという指示を受けていた吕粗。
“自然”を売りにしているリゾート惑星なだけあって、それによる事故の対処は様々な方面へも行き屆いているようだ旭愧。
その中には颅筋、慣れない食事や気候による體調(diào)不良の対処法も入っている。ここ南國(guó)リゾートエリアならば输枯、ダイビングや泳ぎ疲れの筋肉疲労のケアや熱中癥の処置议泵、日焼けやエステによる肌トラブルや、天然繊維によるアレルギー治療等もサービスに含まれている桃熄。さすがに蚊や蠅と言った蟲(chóng)は駆除しきれないが先口、あらかじめ數(shù)種類(lèi)の予防薬を摂取しているので問(wèn)題はなかった。
しばらくじっとしていなければならないというのは瞳收、ラインハルトには耐え難いのだろう碉京。熱と痛みに我慢する姿は痛々しかった。
それでも一人ではなく螟深、キルヒアイスが傍にいてくれるという事が收夸、ラインハルトを何よりも安心させた。
「ラインハルト様血崭、これならお口にできますか?」
そういって目の前に出されたのは厘灼、アイスクリームとフルーツの盛り合わせだった夹纫。
ラインハルトは身體が火照ってしまっていて一向に食欲が湧かず、食事をしようとしなかったのだ设凹。それを心配したキルヒアイスが舰讹、サポートセンターに問(wèn)い合わせて用意してもらったのが、この南國(guó)フルーツの盛り合わせだった闪朱。珍しいフルーツや冷たいアイスクリームならば食欲がなくても口にするかもしれない月匣、そう思ったのだ钻洒。
パイナップル、マンゴー锄开、パパイヤ素标、ライチ、アセロラ萍悴、スターフルーツ头遭、マンゴスチンにカニステル。見(jiàn)慣れたオレンジやシトラス癣诱、メロンも綺麗に切り分けられているようだ计维。床に置かれた別の籠にはドラゴンフルーツにパッションフルーツ、タマリンドやスターアップルが丸ごと入れられていた撕予。
もちろんラインハルトにもキルヒアイスにも名前など分からなかったのだが鲫惶、二人ともフルーツの甘い香りに頬を緩ませた。
「せっかくだから貰おうか」
そう言って身體を起こそうとするのを制して实抡、キルヒアイスはスプーンでアイスクリームをすくった欠母。ラインハルトはまるで小さな子供のようだと抗議しながらも、優(yōu)しい笑みを浮かべながら目の前に持ってこられたそれを恥ずかしそうに口にした澜术。
ココナッツ風(fēng)味のアイスクリームが冷たくて気持ちがいい艺蝴。
それからは小さくカットされたフルーツを勧められた。初めて口にするトロピカルフルーツに鸟废、二人は味や見(jiàn)た目の感想を交えながらその夜を過(guò)ごしたのだった猜敢。
キルヒアイスの甲斐甲斐しい手當(dāng)てもあって、翌日には背中の火照りは治まっていた盒延。
冷たいシャワーでさっぱりしようとしたラインハルトは缩擂、取り付けられた鏡を見(jiàn)たとたんに寢室へと駆け込んでしまった。その行動(dòng)に驚いたキルヒアイスが後を追うと添寺、ラインハルトは掛布の中に潛り込んでいた胯盯。
「ラインハルト様? 一體どうされたのです」
「……」
「日焼けが酷くなったのですか计露?」
「…チガウ」
「まだ熱があるとか博脑?」
「……違うんだ」
「ならば、何があったのです票罐?」
全く事態(tài)がつかめずに叉趣、キルヒアイスは困惑した。
「ラインハルト様该押、おっしゃって頂けなければ分かりません」
掛布をはがそうとすると疗杉、端を握りしめて必死になって阻止しようとする。
「ラインハルト様……」
困ったようなキルヒアイスの聲音に蚕礼、包まったままのラインハルトが身じろいだ烟具。
「……か」
「はい梢什? 何でしょう、ラインハルト様」
「おれを嫌いになったりしないか……」
ぼそぼそと呟かれた?jī)?nèi)容は朝聋、キルヒアイスにとっては青天の霹靂だった嗡午。
「何の冗談ををおっしゃっているのです?」
ラインハルトを嫌いになる玖翅?
そのようなことは翼馆、キルヒアイスにとっては宇宙がなくなろうともありえない。一體どうして金度、ラインハルトはそのようなことを言うのだろう应媚。しかも結(jié)婚したばかりだというのに。
「私がラインハルト様を嫌いになる事などありえません」
「……」
「ラインハルト様」
「本當(dāng)に猜极?」
「本當(dāng)です中姜。信じていただけませんか」
「……おれが醜くなってもか?」
「ラインハルト様跟伏?」
ラインハルトが醜い丢胚? 病いに臥してもその美貌は損なわれることはなかった。それ以前に受扳、ラインハルトは己の美貌に頓著した事などなかったはず携龟。それが今になって、何故気にするのだろう勘高。しかも醜いなどとは……峡蟋。
「ラインハルト様、失禮いたします」
益々訳が分からず华望、キルヒアイスは少々強(qiáng)引に掛布をめくってラインハルトを引き出した蕊蝗。そむけようとする顔を自分に向けさせる。
「見(jiàn)るな赖舟! キルヒアイス蓬戚!」
言うなり顔を隠そうとする腕を押さえてのぞき込み、息を飲んだ宾抓。昨日子漩、日焼けして火照っていた肌の皮膚が、あちこち剝けているのだ石洗。それは顔にも及んでいて痛单、鼻や頬の高い部分が剝けていた。暑さに慣れていないうえに劲腿、初めての日焼けだったのだからよくある後遺癥なのだが、ラインハルトは知る由もない鸟妙。
「ラインハルト様」
半ば脫力したようなキルヒアイスの聲を聞いて焦人、ラインハルトは泣きそうになった挥吵。
「見(jiàn)ないでくれキルヒアイス。こんなみっともなくなってしまって花椭、嫌になっただろう……」
せっかく結(jié)婚したのに忽匈、こんなのはあんまりだ。キルヒアイスは常日頃矿辽、ラインハルトを天使だの丹允、綺麗だの、美しいだのと恥ずかしいことばかり口にする袋倔。ならば雕蔽、このようなみっともない姿など見(jiàn)ては、呆れて愛(ài)想を盡かしてしまうのではないか宾娜。新婚旅行の途中だというのに批狐、もう離婚しなければならないかもしれない。そう思った途端前塔、ラインハルトはどうしていいか分からずに嚣艇、掛布に潛り込んだのだった。
呆気に取られていたキルヒアイスだったが华弓、事態(tài)を察すると頬が緩んでくるのを押さえられなかった食零。自分の気持ちにさえ疎いラインハルトが、キルヒアイスに嫌われたくないと思って怯えているのだ寂屏。それはつまり……贰谣。
「ラインハルト様」
キルヒアイスは、掛布ごとラインハルトを抱きしめて凑保、嬉しそうに囁いた冈爹。
「ラインハルト様は、そんなに私に嫌われるのがお嫌ですか」
俯いたままこくりと頷く欧引。その仕種が稚けない子供のようで频伤、キルヒアイスの保護(hù)欲がくすぐられる。
「私もです芝此。ラインハルト様に嫌われたかもしれないと思った時(shí)は憋肖、生きる意味もなくしてしまいました」
「キルヒアイスっっ」
いつの事を言っているのか察して、ラインハルトは縋りついた婚苹。
「でも岸更、そうではないと。ラインハルト様も私と同じように膊升、私を想ってくださっているのだと知った時(shí)は本當(dāng)に嬉しかったのです」
「……キルヒアイス」
泣きそうになるのを見(jiàn)られたくなくて怎炊、ラインハルトはキルヒアイスの胸に顔を埋めた。
「傍にいてくれるのか」
「はい」
「おれを嫌いになったりしないか」
「はい」
「醜くてもか」
ぷっ、と思わず噴出してしまった评肆。
「キルヒアイスっ」
人が真面目に聞いているのにと頬を膨らませた债查。そんなラインハルトが愛(ài)おしかった。
「たとえ貴方がどのようなお姿になろうとも関係ありません」
「……そうか」
そう言ったまま瓜挽、二人は朝の靜けさの中盹廷、しばらくの間そうして寄り添っていた。
それでもラインハルトは肌の狀態(tài)が元に戻るまで久橙、キルヒアイスが觸れることを拒み続けた俄占。
市場(chǎng)の喧騒の中を、マングローブの群生のほとりを淆衷、見(jiàn)晴らしの良い埃っぽい道を缸榄、靜かな森の中を、どこまでも続くかのような白い砂浜を吭敢、ラインハルトはキルヒアイスと二人碰凶、寄り添って歩いた。
ただ二人で一緒にいる鹿驼。
それだけのことに欲低、これほどに安心して満ち足りている。こんな穏かな気持ちになったのは畜晰、どれくらい久しぶりだろうか砾莱。
キルヒアイスを失くしたと思ったときから、自分の心は虛ろになり凄鼻、乾き腊瑟、ひび割れ、壊れていった块蚌。
優(yōu)しく接してくれる者も闰非、労わってくれる者も、心配してくれる者もいたのに峭范、自分はその全てに背を向けたのだ财松。キルヒアイスを失くしてしまった自分には、必要がないと纱控、そうされる資格がないと思ったからだった辆毡。
でもそれは違ったのだろう。
ラインハルトはふとヒルダを思った甜害。彼女はそんな自分をずっと支えてくれていた舶掖。どんな気持ちで傍にいてくれたのだろうか。とくに考えたこともなかった尔店。
なのに耐え切れずに呼び止めてしまった眨攘、そうしてはいけなかったのに……主慰。自分よりも弱い者に縋ってしまったという負(fù)い目が、ラインハルトにはある期犬。
今河哑、自分はキルヒアイスに包まれて平穏な気持ちでいる。自分は彼女にほんのひと時(shí)でも龟虎、その様な気持ちを與えてやれたのだろうか。
ラインハルトには分からない沙庐。
「すまない……」
誰(shuí)に対してなのか鲤妥、思わずこぼれた。
誰(shuí)かと過(guò)ごす暖かい時(shí)間を拱雏、誰(shuí)かを思う優(yōu)しい時(shí)間を棉安、自分は奪い続け劫火の中に突き落とした。
視線の先で夕日が水平線に沈み铸抑、赤い色合いが海に溶け込んでいく贡耽。それはまるで炎が燃え広がっていくようだった。
∪笛础- 死者は忘れない∑崖浮-
その通りだ。
視覚と聴覚に刻まれた刁憋、その殘酷な景色と絶望の言葉滥嘴。自分はその罪に対して裁かれなくてはならないのだ。
その代償として大事な人を失った至耻。それでも足りないと血を流し続けて若皱、己でさえも焼き盡くした。しかし尘颓、それでも足りないのだろう走触。それ程のものを自分は奪い続けたのだから。
償いきれない思いを持て余すように疤苹、堰を切ったように凍てついた蒼氷色の瞳が溶け出した互广。心が溫められたせいなのか、涸れ果てていたはずの泉が湧き出るように溢れてくる痰催。
大きな手が瞳を覆う兜辞。背後から溫かいぬくもりが包み込んでくる。
「ラインハルト様」
キルヒアイスの靜かな聲が響く夸溶。
「ラインハルト様は昔おっしゃいましたでしょう逸吵? ご自分が手に入れるものは、どんなものでも半分は私のものだと缝裁。それは富や名譽(yù)や権力だけではありません扫皱。貴方の負(fù)った哀しみも足绅、受けた傷も、犯した罪も苦しみも韩脑。私はその全てをラインハルト様と分かち合いたいのです」
「キルヒアイスっ」
ラインハルトが喘ぐように名を呼ぶ氢妈。
「言いましたでしょう、ずっとお傍におりますと」
答える代わりに段多、まわされた腕を握りしめる首量。この腕は自分のための腕なのだ、自分だけの……进苍。
ラインハルトは加缘、自分に與えられた溫もりを逃がさないように、今度こそ間違えないようにと觉啊、キルヒアイスの腕に縋りついた拣宏。
赤く沈む夕日が、白い砂浜に重なった二人の影を長(zhǎng)く映していた杠人。
バイアエのサポートセンター內(nèi)のデータ室である勋乾。
「駄目だ」
端末に向かって格闘していた一人が、癇癪を起こしてPCに拳を叩き付けて自分の頭をかきむしった嗡善。
「どうしたんだ辑莫、この間から唸ってるじゃないか」
「ああ。あのイニシャルだけのお客さまなんだが……」
「金髪と赤毛の二人連れだったな」
「陛下のそっくりさんな」
「この世には似ている人間が3人はいるっていうけどなー」
「似すぎだよな~」
「構(gòu)わんB四巍摆昧!」
「美人なら何人いたっていい!蜒程!」
そうだそうだと周りも盛り上がる绅你。
「そういや、連れの赤毛がすごい慌ててたよな~」
「日焼けしたとかで」
「初めてだったんだな」
「よくいる昭躺、よくいる」
初體験で未知のことに動(dòng)揺する客を多く見(jiàn)慣れたせいか忌锯、どうやら彼らはトラブルを起こす客に対して保護(hù)者のような感覚になっているらしい。
「それで领炫?」
飲み物を差し出しながら偶垮、一人で真剣に端末と格闘している同僚を一応、気づかってやる帝洪。
「ああ似舵。IDカードに埋め込まれたデータからアクセスしようとしたんだが、何度やってもセキュリティーに引っかかって確認(rèn)ができないんだ」
「え葱峡? それって砚哗、どこの誰(shuí)か分からないってことなのか」
「でも、予約は入れられていたんだろう砰奕?」
「分かるのは蛛芥、グリューネワルト大公妃様に繋がっているってとこまでだ」
ざわり提鸟、とその場(chǎng)が緊張した。予期せぬ事故や病気に見(jiàn)舞われた場(chǎng)合のために仅淑、個(gè)人情報(bào)をチェックしているのだ称勋。萬(wàn)が一に備えての処置なのだが、その擔(dān)當(dāng)者が告げた事実に涯竟、それまでの暢気さは払拭されてしまった赡鲜。
「……確か二人のIDカードは真紅に黃金の有翼獅子ゴールデンルーヴェの意匠だったよな」
「それって、皇室関係者でも極少數(shù)しか発行されていないカードだろう庐船?」
「登録されている持ち主しか使用できなくて蝗蛙、他の者が使おうとすると爆発するとか言われている」
「大公妃様ってことは、イニシャルの“M”はマリーンドルフではなくミューゼル……」
「マリーンドルフ家ならイニシャルで隠すことはないだろう醉鳖。大公妃様、いや陛下の係累は全く表に出てこないからな」
「よくある姓とはいえ……」
「顔までそっくりなんて哮内、ありえない…よな……」
「じゃあ盗棵、もう一つの“K”って、キ…」
思わず口と噤む北发。室內(nèi)にさざ波のように動(dòng)揺が広がっていく纹因。
「……亡くなった、んだよ琳拨、な瞭恰?」
「一応、二人とも……な」
「アクセスしようとするとセキュリティーに引っかかり狱庇、カードはイニシャルのみで惊畏、“R?V?K‐M”と“S?K‐M”」
「いかにもな意味深…」
「ダブルネームってことは……」
「…この間、改正されたんだっけ」
「それでイニシャルなのかC苋巍颜启?」
同性だぞ? とか浪讳、重婚じゃないのか缰盏? とか、亡くなったんだよな淹遵? とか口猜、王冠放り出していいのか? とか透揣、彼らも言いたいことはあったが济炎、それよりなにより、つまるところ淌实。
― 全銀河に放映された冻辩、あの盛大な國(guó)葬はなんだったのだろう……〔蟆-
という、脫力するしかない結(jié)論だった恨闪。彼らに口を出す権利はない倘感。所詮は他人よその家のこと×剩皇室にもいろいろ事情があるのだろう老玛。このカードが発行されているということは、暗黙の了解ということなのだろうから钧敞。
へたにつつくことはない蜡豹。好奇心は貓をも殺すのだ。
「もしあの二人になにかあったら溉苛、この星ごと吹っ飛ばされそうだな……」
冗談ではすまないような冗談を口にして镜廉、バイアエデータ室の関係者は蒼白になっていた。何が何でも無(wú)事にこの星から送り出さなければと愚战、二人の安全確保の為に慌てて各部署に連絡(luò)を入れたのだった娇唯。
ラインハルトとキルヒアイスは、自分たちがこのリゾート惑星にかつてない混亂を巻き起こしているなどと思いもしない寂玲。それどころか塔插、自分たちの正體がばれているとは思いもしない。
なのでそんな事態(tài)が起こっているとは知らず拓哟、二人はのんびりと太陽(yáng)が海に沈みきるまで夕景色を堪能した想许。ヴィラまで帰ってきたのは、紫がかった赤い夕陽(yáng)が海の向こうへと半ば隠れた頃だった断序。
仲良く繋いだ手には流纹、ホワイトゴールドとレッドゴールドを掛け合わせたビコロールの指輪が飾られていた。右手の薬指にはめられたこの指輪は逢倍、寫(xiě)真を撮る時(shí)にアンネローゼから贈(zèng)られたものだった捧颅。
古い時(shí)代には指輪を交換するという、今では廃れてしまった習(xí)慣があったそうだ较雕。もう知っている者はいないのだからと碉哑、そのまま記念にはめている。
お互いが亮蒋、お互いの為に生きるという扣典、新たな誓いの代わりとして。
どこまでも続く白い砂浜には慎玖、二人の足跡だけが殘されていた贮尖。
まるで、これから先もずっと二人で歩いていくという趁怔、新たな夢(mèng)への道標(biāo)ように……湿硝。
<fine>
おまけ
すぐ目の前に薪前、こんがりと焼けたうなじがある。
腰まであった豪奢な黃金はうっとおしいと关斜、記念寫(xiě)真を撮った後に切ってしまったのだ示括。しなやかでさわり心地のよかった長(zhǎng)い髪を気に入っていたキルヒアイスは、もったいないと殘念に思ってしまった痢畜。しかし「お前がいるんだからいいだろう」というラインハルトの一言で垛膝、一瞬の名殘惜しさも消えてしまった。
子供のように口をとがらせてそっぽを向いてしまったが丁稀、耳が真っ赤に熟しているのが丸見(jiàn)えだった吼拥。自分にだけ見(jiàn)せる稚い仕種に、キルヒアイスは思わずにやけてしまいそうになる頬をこっそりと引き締めた线衫。
髪の長(zhǎng)さと自分の不在が比例している凿可。
ラインハルトの中では獨(dú)りだった時(shí)間の、哀しみと空虛さ授账、罪悪感の象徴なのだろう矿酵。髪を切ることで、少しでもそれらから解放されるのであればその方がいい矗积。キルヒアイスはそう感じて、ラインハルトの髪に鋏を入れたのだった敞咧。
その隠されていたうなじが棘捣、今キルヒアイスの目の前に無(wú)防備にさらされている。普段の陶器のような白い素肌と違って休建、南國(guó)の陽(yáng)射しにこんがりと焼かれてうっすらと赤く色づいている乍恐。
- 美味しそうだ -
不謹(jǐn)慎にもそう感じたキルヒアイスは测砂、ゆっくりとラインハルトのうなじに近づいていった茵烈。
くちゅ。
うなじのほてりが砌些、押し當(dāng)てた唇を通してキルヒアイスに伝わる呜投。
「キ、キルヒアイスっ4媪А仑荐?」
ラインハルトはガーゼの冷たさとは別の、濕った感觸に驚いて聲をあげる纵东。反射的に起き上がろうとするも粘招、キルヒアイスにやんわりと押さえ込まれて身動(dòng)きできない。キルヒアイスはもがくラインハルトのうなじに何度も口付けを落としていく偎球。
髪の生え際から肩甲骨にかけて洒扎、きめ細(xì)かい肌の感觸を味わうように辑甜、キルヒアイスの唇が下りていく。
ラインハルトは袍冷、柔らかくいたわるような口付けに磷醋、次第に心地よさを感じていった。うっとりと流され难裆、しばらくは目を閉じて微睡みを楽しんでいた子檀。しかし段々とむずがゆいような感覚にとらわれ埋泵、皮膚の表面ではなく身體の芯が熱くなってきてしまった粱哼。
「ま馋袜、まずい」
日焼けのせいで背中が火照って痛くてたまらないのに茎芋、それとは別の熱さに身體がうずうずし始めたのだ烤惊。キルヒアイスの口づけで忘れていた痛みと疼きが一気にラインハルトを襲いだした梢为。
「キ榴芳、キルヒアイスっ罩句。もう谍憔、やめ…」
制止の言葉を漏らしても耳に入らないのか匪蝙、キルヒアイスに止める気配はない。どうやらラインハルトの肌を感じるのに夢(mèng)中になっているようだ习贫。
口付けは日骨をたどって逛球、肩甲骨から脇腹の方まで流れていく。
「やあっ」
ラインハルトはたまらなくなって身を捻ろうとするが苫昌、キルヒアイスの重みでそれもままならない颤绕。
「キルヒアイス、やだ???」
日焼けとは別の火照りに祟身、身體が暴走しようとする奥务。切羽詰ったラインハルトは、とっさに容赦ない蹴りをキルヒアイスに放ってしまった袜硫。
「ぐっB仍帷!M裣荨帚称!」
いきなり襲った衝撃に、キルヒアイスの行動(dòng)が一瞬にして止まった秽澳。
「キルヒアイスの馬鹿っっJ郎薄!」
ラインハルトはそう言い放つと肝集、恥ずかしさのあまりそのまま掛布に包まってもぐり込んでしまった瞻坝。
「ラ…、ラ…イ、ン……ハ所刀、……さ…ま…」
キルヒアイスは不意にくらった一撃に衙荐、身じろぐこともできずに脂汗を流して蹲っていた。偶然とはいえ浮创、もろに股間に決まってしまったようだ忧吟。
「っ…酷い、で…す……ラインハルトさま……」
加減もないラインハルトの蹴りである斩披。躊躇う余裕のない行為による痛みは溜族、想像を絶するにあまりある。
使い物にならなくなったらどうしてくれるのか垦沉、そんな訴えも不機(jī)嫌の塊となってしまったラインハルトには屆かない煌抒。抑えきれなかったキルヒアイスの自業(yè)自得である。
キルヒアイスが回復(fù)するのが先か厕倍、ラインハルトの機(jī)嫌が直るのが先か寡壮。新婚旅行という甘いナーハティッシュデザートには、少々辛すぎるスパイスだった讹弯。